すっかりお屠蘇気分も抜けてみなさま既にお仕事モードかと思いますが、新年一発目のブログは昨年末の忘年会の食事から。
2022年の年の瀬、最後の最後にウマいもの食べて2022年を締めくくろうじゃないの、と言うわけで向かったのは東銀座。
昭和通りの東側にはいにしえの地名を冠した「木挽町通り」と言う通りが有るのですが、その通りを築地側から「清月堂本店」を目印に入り、料亭「松山」(ここ、政財界の大物が足を運ぶ有名な料亭なんだそう)のお向かいあたり。
建物の外から階段を降りて、ガス灯を模した風情のある灯りの奥に見えてくるレストランがこの日のお目当て、「ラ カーヴ デ ランパール」。
「ラ カーヴ デ ランパール」は「カーヴ(cave)=ワイン貯蔵庫」と店の名前に謳う通り、豊富なワインを楽しめるワインバー。
なのですが、ぼくたちが楽しみにしていたのはその料理。
「ラ カーヴ デ ランパール」の現在のシェフは湯澤貴博氏。
湯澤シェフの料理に出会ったのは2004年の暮れでした。
湯澤シェフはその当時表参道の「レストラン アンフォール」の新進気鋭のシェフとして話題になりつつあり、その噂を聞きつけて訪問したぼくたちも、すぐにその料理のファンになったのでした。
当時のスペシャリテ、アヴォカドとオマールのコンソメジュレを頂いてはこんなウマい前菜が有るのか?と驚き、鹿や山鶉、仔羊などの肉料理の力強さと洗練に感動したものでした。
それにしてもそれがもう20年近く前になるということに驚きますね。
「ラ カーヴ デ ランパール」の料理はコースに仕立てて頂くこともできるのですが、この日はアラカルトメニューから同行者と料理を選んでみました。
まずはアミューズとしてこちら。
- ひとくちブーダンノワール
ブーダンノワールはフランスの伝統的なシャルキュトリの一種で、豚の血を使ったソーセージですね。
「豚の血」と聞くとちょっと身構えてしまうひともいるかもしれませんが、もちろんこちらのブーダンノワールは雑味なくコクのある旨味に満ちています。
この夜はメインディッシュに肉料理を2皿と言う構成にしたので、前菜は魚介系からチョイスしてみました。
前菜のひと品目はこちら。
- サワラの炙り焼き 茄子マリネとシャインマスカット ロックフォールのクリームソース
鰆はデリケートに燻製して香ばしさを纏わせ、レア感を残した絶妙の火入れにとどめています。
ロックフォールチーズを使ったソースは思いのほか優しい味わいですが、ロックフォールの独特の香りが料理を引き締めていますね。
- 浜名湖産 活ハゼのふわふわクレープ ボナシェンヌ ブールブランソース 塩いくら添え
クレープ ボナシェンヌは生地にじゃがいもを使ったクレープ。
浜名湖、と聞くとついつい鰻を思い浮かべてしまいそうになりますが、実はハゼも浜名湖の秋冬の名物なんだそうで。
ハゼと言えば天ぷらくらいしか食したことがなくあまり馴染みのある食材ではなかったのですが、味わいは淡白で実に上品でした。
そして繊細で優しい味わいの印象を一変させるアクセントとして塩いくら。この塩いくらが良いですね。
そして前菜のトリは同行の友人からのリクエストで牡蠣を使った料理。
- 三陸広田湾産 牡蠣のソテー フランボワーズヴィネガー風味 春菊のリゾットと下野葱添え
ほとんどの食材に好き嫌いはないのですが、牡蠣は自分から好んで食す食材ではありません。
なので、自分だけだったらこの料理を選ばなかったと思うのですが、結果としては友人に感謝することになりました。
この料理、半世紀以上生きてきて、人生でいちばんウマい牡蠣でした。いや、大袈裟ではなく。
牡蠣の濃厚な旨味と華やかな香りのフランボワーズのヴィネガーが相まって実に滋味深い料理に仕上がっていました。
下野(しもつけ)の甘みと旨味のバランスが取れた葱もこの牡蠣に負けない存在感です。
いや、牡蠣ってウマイなあ(笑)。
そしてメインディッシュのひと皿目。
- 北海道産 羆(ひぐま)バラ肉のカルボナード
この日のいちばんの驚きがこの料理でした。
カルボナードとはベルギーの郷土料理で通常は牛肉をビールを使って柔らかく煮込む料理。
熊も人生で何度か頂いた記憶はありますが、旨味こそ強いものの、そこはそれ、やや野趣が強いと言いますか、癖も感じたものでした。
しかしこちらで頂いた熊、食材を教えられずに口にしたのであれば、熊の肉と言い当てるのは難しいかもしれません。それくらい洗練されています。
強いて言えば牛肉に近い食感、味わいでしょうか。
しかしただ洗練されているだけかと言えばそうではなく、バラ肉と言うこともあり旨味の強い脂身で力感あふれるひと皿。
実に素晴らしい肉料理でした。
メインディッシュのふた品目は仔羊。
- フランス シストロン産 仔羊もも肉のロースト 秋刀魚と茄子のタルトレット風
仔羊を使った料理は湯澤シェフの作る料理のなかでもぼくが特に好きなものなので、メニューに仔羊が有ったことを確認し迷わずチョイス。
レストランで料理を頂く楽しさっていろいろ有って良いと思うのですが、その本質はやはり料理を食べてそのウマさに感動するところに有ると思うのですね。
もちろん日本で頂くフレンチ、決してお安いお値段の食事ではありませんから、ビジュアルの美しさやプレゼンテーションも大切な要素ではありますが、口にしてああウマいなあ、と思えるような料理自体の味わい、力感がぼくにとっては大切なのです。
調理の技法やテイストこそ変化すれど、湯澤シェフの肉料理に一貫しているのはその味わいの力強さ、芳醇な香りでしょうか。
この夜の仔羊のローストでもそれは変わらず、絶妙な火入れによって仔羊の味わいがあますところなく引き出された力感の有るひと皿はフレンチを頂く楽しさに溢れていました。
意表を突かれたのがガルニチュールの秋刀魚と茄子。
主張の強い秋刀魚が肉料理のユニークなアクセントになっていました。
- 本日の見上さんお手製デザート
こちらは湯澤シェフではなく「ラ カーヴ デ ランパール」のスタッフ、見上さんの手によるデセール。
金柑のコンポートを添えたショコラのテリーヌは滑らかなテクスチャと濃厚なショコラの香りが印象的な、上等なデセールでした。
コロナ禍でかつてのようにレストラン巡りができなくなり、すっかり外食の頻度も低くなってしまった昨今ですが、久しぶりに湯澤シェフの料理を頂いて改めて思ったのは、ウマい料理ってほんとうにウマいし、ステキなレストランで料理を頂くのはとても楽しい、と言う極めて当たり前のことですが、最近すっかり忘れかけていたことでした。
2023年は今までより少し外食の機会を増やして素晴らしい料理との巡り合いを楽しみたい…この日のディナーはそんな気持ちになるような、食べる楽しみに満ちたものでした。
間違いなく2022年で最高の料理、一年の良い締めくくりになりました。
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・店名 ラ カーヴ デ ランパール
・住所 東京都中央区銀座7丁目15−5
共同ビル 地下1階
・電話 03-6228-4885
・備考 火曜~土曜は26時ラストオーダ
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